トンマッコルへようこそ


トンマッコルへようこそ』を観た。結論から言うといい映画だと思いました。
以下、少しネタばれっぽい話もあり。



舞台は朝鮮戦争末期(1950年)、山奥の小さな集落だ。その集落で3組の兵士が鉢合わせる。飛行機が墜落し、助けられたアメリカ軍兵士。敗走の末、村に辿り着いた2人の韓国軍兵士と、3人の北朝鮮人民軍兵士。当然、南北の兵士は殺し合い寸前の敵対関係となる。彼らはこれまで凄惨な殺し合いをしてきたもの同士であり、和解する余地など見つからないように見える。

ここで最初の見せ場がある。戦争も武器も知らない村人たちがよってたかって彼らの腰を砕いていくのだ。銃と手榴弾を握って向き合う兵士たちの目の前で、男たちはイノシシに荒らされた畑の心配をし、子供たちはきゃあきゃあ遊びながら走り回る。銃口を向けられて「動くな!」と怒鳴られた婆さんは「動かなきゃ便所に行けないよ」といってすたすた歩いて行ってしまう。そんな馬鹿々々しい状況のなかでも彼らは意地だけで一晩中銃を向け合って立ち尽くす。最終的にその意地すら霧散させるのが何だったのかは映画を観た方がいいかもしれない。

こういう腰の砕き方は馬鹿にできない力を持っていると自分は思っている。感情や怨念や思考の渦に囚われている人間の横にふと、そのしがらみから完全に解放されている人間がいたとしたらどうだろう。あるいは人間でなくてもいい、自然でも動物でも絵でも。それが、自分が呪縛に囚われている事を無意識的にであれ気づかせてくれる可能性は多いにあり得る。

で、その後、3組の兵士たちは次第に信頼関係を築いていくことになる。その過程も、雄大な山の景色も、何とも微笑ましいシーンの連続だ。『このままでは終わるわけはない』という予測がそれを一層印象的にさせる。

後半でぎょっとしたのが、墜落したアメリカ兵を探して連合軍兵士が村を襲撃しにきたシーンだった。何にってあんた、人間の「キャップ」に。この映画は最初戦闘シーンから始まる。そこでは通常の戦争映画と同程度の凄惨な映像が使われていて、当然観ている方は強い緊張を強いられる。その緊張が、舞台が村に移った事で次第に解かれて行き、さっきあんな戦場をくぐってきた兵士がこんなにも平和な暮らしに戻ったという事に今度はひどく安心感を覚える。その安心感がピークに達した瞬間に村が襲撃されるのだ。ようやく普通の生活に戻りかけた兵士たちの前に、「戦時の緊張感と暴力性」を身に纏った人間が現れたとき、さっきの安心感が一瞬にして裏切られる。ああもう。なんで戦争…。

興味ある方は是非観てみてください。


あ、やべえ。もうクリスマス・イブだ。
メリークリスマス☆